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神谷篤司、小学五年生は、自分の中の苛立ちと必死で戦っていた。
(聞くなっ、聞くなっ、相手にしたら負けだー!!)
全神経を目の前に集中させる。机の上に置かれた教科書とノート。今日は宿題が出ているのだから、あんなのにかまっていてはいけないのだ。
だがその努力も、次の瞬間崩れ落ちた。
「ねーかみやー。遊びにいこーよぉ。こんないい天気に勉強なんてしてたらもやしっ子になっちゃうぞー」
「うるせえっっっ。遊びに行きたきゃ一人で行け!そしてもう二度と帰ってくるなぁ!!」
「やだなー神谷。俺は神谷と遊びたいんだよ。一人で遊んだってつまんないよ」
「俺は勉強してるんだっ!」
どこの家庭でも親ならこれで一発で黙るが、未知の生命体Xには通用しなかった。
「勉強なんか後でいいんだよ。神谷は俺と外で元気にサッカーをしようね」
「黙れこの、エイリアンが!!」
「エイリアンじゃないよー、神谷の為に未来からやってきたドラくぼんだよ」
そういってよよよと泣きまねをする姿は、どう見ても神谷と同じくらいの年齢の少年である。
「なーにがドラくぼんだ。ドラえもんの親戚か、お前は」
「よくわかったねえ」
「ふざけんな!どこでもドアどころか竹コプターも出せない、そもそも四次元ポケットのないドラえもんなんているか。第一、ドラえもんなんて漫画の中の、作りもんじゃーねーか」
「でも俺は、そのドラえもんをモデルに作られたんだよ」
「黙れ、地球外生命体。人んちにまんまと入り込みやがって、なにが目的だ」
険しい顔で問い詰めると、エイリアンはニッコリ笑っていった。
「だから、神谷とサッカーしに来たんだよ」
空が青い。
風も穏やかで、エイリアンいわく、絶好のサッカー日和だ。
「いくよー、神谷」
ポン、とボールがほうられる。
結局神谷は引きずられるようにして公園にきていた。
突然家に住み着いて、神谷の両親にもなぜか「元からいた」ことになっているエイリアンは、非常にしつこい。意地っ張りの神谷が根を上げるほど、ニコニコとしつこい。
エイリアンが来てからもう三日。追い出せないまま、ずるずるとエイリアンのペースに引きずり込まれている。
何とかしなくては、と思うのだが。
「どーしたの、神谷。おなか痛いの?」
「ふざけんな」
「じゃあ、つまんない?二人じゃパスくらいしか出来ないからなあ」
うーんと、考え込んでいたエイリアンは何かひらめいたようだった。
「1on1をやろう!」
「1on1?」
「うん。神谷は、そうだな、あそこの缶がゴールね。俺はあっちのピニール。じゃ、俺からいくよ!」
そういって神谷の返事も待たずに、エイリアンはボールを蹴って走り出した。
サッカーなんて体育の授業でしかやったことのない神谷はあっさりと抜かれて、追いつく間もなくゴールされる。
「あーっ!」
「俺の勝ちぃ!」
嬉しそうに笑うエイリアンは、神谷の負けず嫌いを思い切り刺激した。
「早くボールよこせよ!」
神谷が叫ぶと、高く円を描いてエイリアンからのパスが足元に送られた。
「あー、疲れた・・・・」
「ホント」
夕暮れの中を、二人で帰る。
あれから何度やっても、神谷はエイリアンからボールを奪うことが出来なかった。
それでも、負けず嫌いの神谷を見抜いて試合形式にしたエイリアンはやたらと楽しそうでそんなに嫌な気にはならなかった。
「夕飯なにかなー」
「お前、なにが好きなんだよ、ドラくぼん」
そう聞くと、エイリアン、いやドラくぼんは驚いたように神谷のほうを向いて、破顔した。
「かみやぁ!!」
そのままいきおいよく抱きつかれて、思わず突き飛ばす。
「ひどい、神谷・・・」
「黙れ、エイリアン!」
顔が真っ赤だったのは、夕日のせいにしておこう。
ごめんなさい、イロモノばっかり・・・・(泣)これは最初はもっと弾けた話だったのが、ずいぶん穏やかになりました。
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